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神戸地方裁判所 昭和35年(わ)9号 判決

被告人 金相源 外一名

主文

被告人金相源を懲役四月に、被告人呉喜昌を懲役七月に各処する。

但し、被告人両名に対し、この裁判確定の日から各三年間右刑の執行を猶予する。

被告人金相源から別紙第一目録記載の物件を、被告人呉喜昌から同第二目録記載の物件をそれぞれ没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名はいずれも韓国貨物船北海号乗組の船員であるが、同船が昭和三四年一二月神戸港へ来航した際、大阪市内等で仕入れた雑貨類を、所轄神戸税関の許可を受けないで、同船により韓国に輸出しようと企て、分離前の相被告人張永達等と共謀の上、同月二五日午前五時頃神戸市兵庫区今出在家町二丁目新川橋附近の河岸で着火船に被告人等所有の別紙第一、二目録記載の物件を積み込み、神戸港内第二番浮標附近に碇泊中の前記北海号舷側に右着火船を横着して、前記貨物を船積作業中、警備艇に発見せられたため、右貨物の密輸出を遂げなかつたものである。

(証拠)(略)

もつとも右の証拠によると、神戸水上警察署の警備艇が判示日時頃本件北海号に近づいた際、既に別紙第一目録中番号4及び5、同第二目録番号19乃至22の貨物は北海号内に船積せられ、爾余の貨物は本件着火船内に残つていたことが認められる。ところで関税法にいわゆる輸出とは内国貨物を外国に向けて送り出すことをいうのであるが(同法第二条)本件のように韓国向けの船舶を利用する場合、沖繋りの本船と海岸とを連絡する艀(着火船)に貨物の積込みの開始があつたとき実行の着手に接着する行為があり、本船に貨物の積込を完了したとき輸出が完了する、従つて関税法第一一一条第一項の罪は既遂となるものと解するを相当とする。そうして、多数個の貨物を同一の船舶で輸出しようとする場合において、艀(着火船)から貨物の一部を本船に積込み、未だ積込み未了のものが艀内に残つているときは、全体として輸出が完了していないと認むべきものであつて、これ前記犯罪事実の摘示において本件を全部の貨物の輸出未遂と認めた所以である。

(法令の適用)

被告人両名の判示所為は関税法第一一一条第二項第一項刑法第六〇条に該当するから、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で、被告人金相源を懲役四月に、被告人呉喜昌を懲役七月に各処し、被告人両名につき、犯情刑の執行を猶予するを相当と認め、刑法第二五条第一項を適用し、この裁判確定の日から各三年間右刑の執行を猶予し、別紙第一、二目録記載の物件は本件犯罪に係る貨物であるから、関税法第一一八条第一項に則りこれを没収することとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 石丸弘衛)

第一、二目録(略)

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